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自分について、感情の振れ幅がものすごく大きい人間だと思う。だから些細なことでどうしようもなく笑ったり、心がないであろう無機物に感情移入して泣いたりしてしまうことがある。(自分の)感情は嵐とか激流という言い方がしっくりくるような気がする。嵐や激流に人間の皮をつけたものだから、本当はたぶんやさしくなんてないのだ。
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祖母とひどい言い争いをした。
いつもは言い争いにならないように、慎重に言葉や行動を選んでいる。その日、わたしも祖母もピリピリとしていた。何かきっかけさえあれば放電してしまうような苛立ちのエネルギーが二人ともに満ちていた。ほんの些細なことで、いつもだったら聞き流すような言葉を聞き流すことが出来なかった。さっきと全然言ってることが違うよね? と言葉を突き立てる。祖母も負けじと応戦してきて、その目はまっくろで三角にとがっている。お前はいつもそうやって私のことを馬鹿にしてるんだ! と祖母が怒鳴った途端に、もうわたしは激情を抑えられなくなっていた。正論で責め立てて、祖母の逃げ場を奪ってしまう。こんなことをしてはだめだという自分の意識がものすごく遠いところにあるのを感じる。
祖母が「ごめんなさい、申し訳ございません、申し訳ございません」と泣きながら呟いたとき、わたしは、わたしたちの関係性が孫と祖母でなく、加害者と被害者になっていることに気がついた。それでも抑えきれない真っ黒な気持ちが溢れてくる。祖母が自室に篭ったあと、襖をものすごい勢いで閉めてしまった。祖母はとてもこわかっただろう。わたしはかつて自分がされて嫌だったことを祖母にしている。怒りのままに振る舞って萎縮させ黙らせる。こんなことがしたいわけではないのに止められない。
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仕事に向かう、電車の中で涙をこらえるので精一杯だった。何の涙だ。なぜわたしが被害者ぶっているんだ。失格だよお前は、やっぱりお前なんかに介護は無理だったんだよ。そういう声を抱えて仕事に行く。頭が重い。もう家に帰りたくない。
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ひとまず母に連絡をして、仕事終わりに実家に寄ることにした。定時退社して、そこから二時間半、ただひたすらに歩き続けた。心配した母から連絡が来るまでずっと歩いていた。歩いても全く気持ちは収まらなかったが、母に会って話を聞いてもらったらいくぶん落ち着いた。二日間、母にも祖母宅にいてもらうことになった。恐る恐る帰宅すると、祖母はいつもどおりの笑顔でおかえり〜と声をかけてくる。今まで感じたことがないような罪悪感で、つぶされそうになる。というか、つぶれてしまいたい、いっそのこと。
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いつか祖母のことを殴ってしまうのではないか。殺してしまうのではないか。そんなわけないじゃないかと言い切れないことがおそろしい。黒いもやが始終付き纏うような、重い気持ちでいる。本当はもっとやさしくなりたい。誰のことも傷つけたくはない。ごめんなさいという言葉はどこにも届かない。うまくやっていくしかないということはわかっているけれど、自分の感情の荒波のなかで茫然とし続けている。それでも介護は終わらないし、じゃーやめます! とやめることはできない。自分が選んだことだろう? という言葉で自分も他人も黙らせてしまう。
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拍手ありがとうございます。
お返事はまたのちほど(いつもすみません)。