春は苦手だけど、夜になると街に水のにおいが満ちて、花のかおりも濃く漂ってくるのでそういう部分に限っては好きだなと思う。水辺のない街中でも水のにおいを感じる。雨が降りはじめる直前のような。
14年一緒にいる猫に割と大きめの不調が見つかった。少しずつ別れの気配、密度が濃くなっていくのを感じる。この世界からいなくなっても、毛皮を変えて戻ってくるなんてことはしなくていい。虹の橋のたもとで待っているなんてこともなくていい。死んでしまったらそこでおしまいで、思い出以外のなにもかもがなくなってしまうほうが私にとっては救いになる気がする。とは言え今すぐにでもいなくなってしまう感じでもないようです。
毎日そこそこの距離を歩いていて、街にあるいろいろなものを見つけるのが楽しい。ビルの窓ガラスに見えるマネキンの群れ、カラスの営巣、濁点が取れた看板、夜になると鳥が集まる場所、などなど。最近は、休みの日に鳥が多い場所に行って(特に目当ての鳥がいるわけではないけど)風景を眺めるのもすきだ。植物の名前や鳥の名前を知るたびに、世界の奥行きが広がっていくように感じる。不老不死になって、たくさん本を読みたい。いろんな鳥の、植物の名前を知りたい。本気でそう思う。
いつだって今がいちばん若くて、いつだって今がいちばん楽しい。猫がボウルから水を飲む音も、もう冬のときとは聞こえ方が違う。春の音がする。そんな他愛のない話を誰にもしないまま、きっとすぐに春は過ぎ去ってしまう。