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からあげはあたため直さなくていいよ(ふにゃふにゃになるから)

アルツハイマー型認知症の祖母の介護を終えて、一人暮らしをはじめた人の日記

やさしい30分


22時、最寄駅に着いたので祖母に電話をする。「今から帰るよ」と言うと、祖母は機嫌のよいときの声で「気をつけれよ」と言った。その声のトーンに安堵する。祖母の家は坂の上にあるので、長くきつい坂をゆっくりとのぼる。月が見える。3月だけれどかなり寒くて、首を縮めて歩いた。







祖母は寝る支度を済ませて、暖房もテレビも全部消して、台所でお米を研いでいた。「ただいま」と背中に声をかける。「おかえり」と答える声は、わたしが何年も聞いてきた祖母の、やさしい声だった。時々こういう日があって、まるで昔の祖母が帰ってきたみたいだと思って、でもそんな風に思うのはどうなんだと思い直す。いつだって、祖母は祖母でしかないのに。





お弁当を作っているわたしに祖母があれこれと話しかける。「お前にばかりいろんなことをさせて申し訳ない、お前が作ってくれたお弁当を何もしないで食べているだけで申し訳ない」と言う祖母の顔を、見た。思えば、しっかりと顔を見るのはずいぶんと久しぶりだった。祖母はやさしい顔をしている。「あのね、そんな風に思わなくていいんだよ、お弁当だって、一人分を作ってるわけじゃなくて、自分の分を作るついでにばあちゃんの分を作ってるんだから、全然手間じゃない。申し訳ないじゃなくて、いただきまーす! とか、ごちそうさま! とかでいいよ、それだって要らないよ、いつもぜんぶきれいに食べてくれてありがとう」びっくりするくらい素直にそう言うことができた。








祖母がひとりで干した洗濯物を、ふたりで干し直した。「自分は何もしていない」「迷惑ばかりかけている」これが祖母を怒らせたり、泣かせたりしてしまう感情だ。わたしは祖母のその感情は、とてもよくわかる。わたしと祖母はよく似ているのだ。「ばあちゃんにもいろんなことやってもらってるよ。洗濯物畳んでーとか、お風呂入れてとか、いつもお願いしてるでしょ」とわたしが言うと、「そうだな」と祖母は照れたように笑った。








わたしがお弁当を作っている最中に、祖母は「もう寝るね」と言って自分の部屋に入って行った。その背中に、「おやすみ。また明日」と声をかける。「また明日」と祖母もこたえてくれた。わたしが帰宅してからたった30分だけの、ふたりの時間だった。特別なことは何ひとつないのに、うれしくて涙が出そうだった。いつもこんな風に過ごせたらいいのに、と思わないこともないけれど、介護云々を抜きにしてもそれは無理な話だ。病気であろうがなかろうが、わたしたちの感情は一定でなんていられないのだから。時々こんな風に、なにかの波長がぴったりと合うみたいに、ふたりで静かに過ごせることがある。この時間も、この記憶も、大切にしたい。







たくさんの拍手ありがとうございました。とても励みになります。






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