◾︎
寒くなったので、秋用の上着を出した。その上着を買ったのは今から十年前。新宿の無印良品、セールで安くなっていたものだった。メンズで、かわいいなと思って買った。十年間、秋になると毎年着ている。十年、と改めて考えると胸が締め付けられる。十年前の自分も、十年前の祖母も、何もかもが遠い。
◾︎
面倒な親戚がやってきた。何がどう面倒なのかを書くのは憚られるのだけれど、簡単に言うとお金絡みです。お察しください。彼女もこの十年で随分と変わった。十年前、わたしたちは文通をしていた。彼女の悩みも、日常の些細な出来事も聞いていた。リクエストされた絵を描いて送っていた。十年後、わたしたちは会話さえしない。十年前、わたしは彼女のことが好きだった。おねえちゃんと慕ってくれる彼女が本当にかわいかった。けれど今は違う。一刻も早く祖母の家から立ち去ってほしい。目が合ってもお互いに何も言わない。彼女もわたしのことを邪魔だと思っているし、わたしも同じだった。けれどわたしは彼女を許すことは出来ない。祖母がいくら彼女の訪問を喜んでいても、わたしは同じ気持ちになることは出来ない。
◾︎
疲れると散歩と称して一キロほど歩いたり、自転車で走ったりする。今日も仕事でくたびれていたけれど、数キロ自転車を走らせた。夜の住宅街にはいろいろな匂いが満ちている。食事の匂い、お風呂の匂い、庭木の匂い、花の匂い、枯れ草の匂い、それらとは別の、夜そのものの匂い。ペダルを漕ぐたびにあらゆる匂いが立ち現れて、またひとつペダルを漕ぐと背後へと押し流されていく。それを繰り返す。ただ無心に自転車を漕ぐ。
◾︎
祖母の介護をはじめて、もう少しで二年になる。一番つらいのは身内の無理解だ。彼らの言葉に反論したくなることがいくらでもある。けれど、我慢をする。何も言わない、を選択する。どんどん澱のようなものがたまっていくような気がする。吐き気がする。毎日決まった時間になるとものすごく頭が痛くなる。それでも日々は続いて、やるべきことは次から次へと現れる。ひとつずつやるべきことをやっつけて、それでどうなるっていうんだろう。終わりが見えないことが虚しい。でも、終わりを望んでいるわけじゃない。とにかく苦しいのです。
◾︎
たくさんの拍手ありがとうございました。