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からあげはあたため直さなくていいよ(ふにゃふにゃになるから)

アルツハイマー型認知症の祖母の介護を終えて、一人暮らしをはじめた人の日記

いろんな気持ちが本当の気持ち


父が入院することになり、入院中に読む本を数冊見繕ってほしいと頼まれた。普段父がどんな本を読んでいるのか知らないけれど、割と本を読む人ではあるのでなかなか難しかった。





弟と母と一緒に父の見舞いに行った。渡した6冊の本はもうほとんど読み終わっていたので、追加で2冊、本を持って行く。今度はきちんとリクエストがあった。「時代小説」だ。司馬遼太郎の『人斬り以蔵』と『梟の城』を渡すと、父はマスク越しににこにこと笑った。



お前が最初に選んだ本はどれも似た感じだった、ゲイが出てくるのが多い、という言葉に、無意識に父を試すようなことをしていたのかなと思って、なんだかおそろしくなる。





ベッドに座っている父と話すのはなんだか変な感じがした。なにを話せばいいのかもよくわからない。「ごはんはおいしい?」と訊いたら、眉を下げて首を横に振る父と、わたしにいろんなことを押し付けてぷりぷり怒っている父とは同じ人間だけれど、自分が持つ感情はぜんぜん違うものだ。憎みきれなくなるし、そもそも、たぶん、憎む必要もないのだと思う。





祖母の介護について話すと、いつもとは違う様子で、うんうんと聞いてくれた。「俺が休みの間に飲みに行こう」と父が言うと、母が横から「病み上がりで飲むの」と笑った。父は「俺は飲まないよ、こいつにたくさん酒を飲ませてやりたいんだ」と言って、わたしを見て笑った。なんだか切なくなって、「父のことが嫌い」と書いたいろんな文章を全部消したい気持ちになった。




でもそういう文章を消すことはおそらくないだろう。いろんな気持ちが本当の気持ち。長嶋有の書籍のタイトルが頭をよぎった。父を好きだと思う気持ちも、嫌いだと思う気持ちも、ぜんぶ本当の気持ちで、刻一刻と変わるものだ。






父がいない家はとても静かだ。よっつ並んでいる歯ブラシを見て、わたしはあまりこの家には帰らないけれど、それでもここに歯ブラシが置かれていて、ここはわたしの家なんだと思ったら、なんだかものすごく寂しくなった。ずっとよっつの歯ブラシが並び続けるわけではないのだ。


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