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からあげはあたため直さなくていいよ(ふにゃふにゃになるから)

アルツハイマー型認知症の祖母の介護を終えて、一人暮らしをはじめた人の日記

うたたねの海

■28日
仕事を切り上げて母に電話をかける。「あの、あそこの店で待ち合わせよう」「どこ?」「なんだっけあの、ガラの悪い人たちがたむろしてるところ」「・・・・・・ドンキ?」「そうそれ」そんな会話をして(結局ドン・キホーテではない場所で)落ち合い、祖母の家へと向かう。



祖母は二日ほど彼女の妹の家に泊まることになっていた。祖母はこの日を楽しみにしていたのだけれど、何日か前にはわたしの母に向かって「私の頭がパーになっていることを妹たちに見せびらかすつもりだろう!」「こんな気持ちで会って何が楽しいのか」と怒鳴り散らし、泣いていた。祖母は自分の物忘れが激しくなっていることを悲観して、時々母に当たり散らす。母もその度に苛立ってしまう。



でも祖母はそんなやりとりはもう忘れていて、この日をずっと楽しみにしていた! とにこにこしていた。祖母の家は割と海の方にあり、泊まりに行く妹(祖母の妹をなんと呼ぶのか知らないのでこの呼称で書きます)の家は山の方にある。車を飛ばして1時間くらい。途中のエモい感じのファミレスで食事をとり、とにかく車を走らせる。田圃ばかり。蛙の大合唱。祖母が紛失したお金の話題でピリピリしはじめる車内。ああもういやだなあと思って見上げた空にはきれいな月が浮かんでいて、溜息が出る。




祖母を無事に送り届けて、母と二人でとんぼ返り。帰りは高速を使って、なんやかやとくだらない話をし続ける。「今日はひとりじゃなくて、あんたがいてよかったと思っている」と母がぽつりと言った。その一言が心のやわっこいところを刺激して、泣きそうになったので「帰ったらお酒のもうね」とだけ言った。



■29日
あるイベントのために遠出をした。今日も母と二人だ。久しぶりに会った親戚や知人に、母は「この人今日誕生日」と言ってまわる。よせやい。



おめでとうという言葉に、ひとつひとつお礼を言っていく。お礼を言うたびに、ああほんとうにひとつ歳を重ねたんだなあと思う。なんか変な感じだ。ひとりの親戚が「これから楽しいこといっぱいしてね、楽しんで生きてね、まだまだ人生はこれからなんだから」というようなことを言ってくれた。


楽しいことってなんだろう。
そして、まだこんな人生が続いていくことに絶望する。たぶんものすごく困ったような顔をしてしまったと思う。ごめんなさい。



■うたたねの海
イベントの後に、会場から少し離れたところにある海に行った。何度か来ているんだけれど、なかなか気に入っている。仲のいい友達と砂浜に埋まっていた扇風機を掘り起こしたこともあったし、父と二人で何が落ちてたのなんだのと騒いだこともあったし、ひとりでぼんやりしていただけの日もあった。



わたしが頻繁に足を運ぶ海よりも幾分か穏やかに見えるこの海が好きだ。日によってはめちゃめちゃに荒れていることもあるけれど、なんとなく「うたたね」という言葉が似合う海だと思う。そんなに深く眠っているわけではないけれど、らんらんに目を光らせているわけでもない。季節で言えば春みたいな印象。こういうところに住んで時間を見つけては海に繰り出したら楽しいだろうな。

そういう下らない平和な妄想は強い春風が吹き消していった。



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