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からあげはあたため直さなくていいよ(ふにゃふにゃになるから)

アルツハイマー型認知症の祖母の介護を終えて、一人暮らしをはじめた人の日記

ぼくはひとりで、よるがひろがる


なんてことはない。
家に帰りたくなかっただけ。正確に言えば、仕事が終わってそのまま家に帰って、祖母と向き合いたくなかっただけ。なにかがあったわけじゃない。いろんな、小さなことの積み重ねがあっただけ。積み重ねたものが崩れてしまっただけ。








わたしは、精神的に疲れると「とにかく歩く」とか「海に行く」とかしてしまう癖がある。職場から海は遠いので、歩くことにした。珍しく残業もしなかったので、ぷらぷらと歩き出す。気になっていたお店に入り、すきなだけ店内を眺めて回る。誰とも一緒じゃないから、何をするのも自分の勝手だ。すきな飲食店に初めてひとりで入った。周りは二人連ればかりだ。店内でひとりなのは自分だけだ。さみしいな、と思った。でも、さみしいという気持ちより、楽しさが勝った。何を気にすることもなくひとりで、黙って食事をとる。おいしいなあと思っても口には出さない。それが今日は少しだけ楽しい。








祖母に帰るのが遅くなると電話をした。誰かと一緒なのかと訊かれて、ひとりだと答える。祖母が笑った。それは「嘲笑」だった。だからなんだってんだよ。ずっと気になっていた「名探偵ピカチュウ」のチケットを買う。ひとりで映画を観るのは久しぶりだ。それこそ、東京で一人暮らしをしていたとき以来だろう。あの頃わたしは練馬区に住んでいて、立川にある映画館まで通っていた。立川の映画館がすきだったのだ。その頃の気持ちを思い出す。映画を観た後の高揚感を誰とも共有「しない」という選択の心地よさと、さみしさ。








シアターにはわたしの他には男性がひとりだけだった。わたしは終始泣いていた。ストーリー云々ではなく、「ポケモンが生きて、動いている、ポケモンのいる世界」に泣いてしまった。観終わったあと、ひとりで静かにいろんなことを反芻しながらバス停に向かって歩いた。明日は雨が降るらしい。風のなかに、ずっと奥の方に雨のにおいがしている。夜風はすっかり春のそれだ。








帰宅するともちろん祖母は床についていて、飼い猫がはやくごはんよこせよ! と鳴いていた。これから先、こんな日が増えていくんだろうなと思う。わたしには恋人がいない。友達もとても少ない。家族だっていつかいなくなる。祖母もねこも、誰もかれもが。こうやってひとりでごはんを食べて、出歩いて、すきな映画を観て、ひとりで帰る日が増えていくのだ。そう思うとものすごく寂しいけれど、それはそれでまあ悪くないなとも思える。







たくさんの拍手ありがとうございました。
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