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夜に雨が降るとわかっていて、傘を待たずに仕事に出掛けた。
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警備員さんに言った「お疲れさまでした」の声が自分でも驚くほど弱々しくて、ため息をついた。ため息ばかりついている。しんどいなあ、と思う。何が、と列挙すれば何百文字にもなるけれど、大したことではない。大したことのないことが積もり積もって、肩にのしかかる。
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祖母と暮らしていると、祖母のことが大嫌いになってしまう瞬間がいくつもある。でもそれは「瞬間」でしかない。祖母のことを頭の先からつま先まで嫌いになることはない。今のところは。だけどその瞬間が耐え難い。罪悪感に苛まれる。
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電車を降りる。強く雨が降っている。誰もが傘をさして歩き出すなか、ひとり、傘をささずに歩き出す。すぐにびしょ濡れになる。頭を振ると髪の先から雨がとんだ。少し楽しい気持ちになる。何かに抗うような気持ちで傘を持たずに出た。一体何に抗おうとしたんだ。ばかなやつ。びしょ濡れになって祖母の家に帰ると、祖母は編み物をしながら「おかえり、柿でも剥こうか」と言った。どうしてわたしは瞬間的にでもこの人を嫌いになってしまうのだろう。たばこを吸うために外に出た。一本吸って家の中に入ったら、きっと祖母はよくきかなくなった手で柿を剥いているだろう。そのことが胸を刺す。ごめんなさい、と言いたくてたまらなくなる。でもわたしはその一言をきっと言わないだろう。言わないのではなくて、言えないだけかもしれないけれど。
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たくさんの拍手ありがとうございました。