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からあげはあたため直さなくていいよ(ふにゃふにゃになるから)

アルツハイマー型認知症の祖母の介護を終えて、一人暮らしをはじめた人の日記

周回遅れの人生


ひとりで雪の中を歩いているみたいな毎日を過ごしていた。何もかもが白と銀色にかき消されて、見慣れた景色を雪が覆い隠してしまうように、いつもの風景の「正しい」色合いを忘れてしまった。なにを見ても砂のように見えて、街の表情を思い出すことができない。知っている街のはずなのに、知らない街に見える。だんだんと自分の感情がゆるやかに、しずかに、閉じていく。その音だけが聞こえる。








「旅行にでも行こう」と友人が声をかけてくれた。わたしは、ほとんど旅行ということをしたことがない。友人とはずいぶん長い付き合いをしている。けれど、旅行に行くのははじめてだった。ふたりで、鈍行電車に乗って遠い町まで向かう。ふだん降りる駅のそのずっと先の駅まで。友人にはついついいろんなことをこぼしてしまって、介護がつらい、人生になにも希望がない、と旅行中に何度もこぼしてしまった(今思い返しても申し訳なくなります)。







部屋に露天風呂があって、こどものようにはしゃいでしまった。おいしいものをたくさん食べて、お酒を飲んで、疲れてこたつで寝てしまって、あっという間に帰る時間になってしまった。祖母のことはぜんぜん考えなかった。「祖母のことをぜんぜん考えなくていい時間」が欲しかったのだ、というのは、旅行から帰ってきてから気がついたことだけれど。








これからいろんなところに遊びに行こう、と友人が言ってくれたのがとてもうれしかった。友人と旅行に行く、なんて、きっと他の人たちは10年くらい前に経験していることだろう。わたしはいつでもまわり道をしていて、周りの同年代を見ていると、自分は「周回遅れ」だなと思ってしまう。まだそんなところにいるの。まだこんなところにいるよ。








翌日、びっくりするくらいの雪が降った。四月の頭なのに、ぼさぼさと牡丹雪が降って、あっという間に雪景色になった。「ほんものの」雪景色の中を歩きながら、なんてきれいなんだろうと涙が出そうになった。しろと、ぎんいろに包まれた世界は、昨日見たそれとはまったく違う顔をしている。降り積もった雪が音を吸い込んで、世界のなかに自分の呼吸の音と、足音がいやに響く。さむい、と声に出す。隣で友人がほんとさむい、と答えてくれて、なんだかそれがものすごくうれしかった。








母が無事に退院したので、祖母宅によく泊まっていってくれるようになった。祖母は母(つまり祖母にとっては娘)がいるとものすごく機嫌がよいけれど、その代わり、わたしにきつく当たるようになった。それはやっぱりものすごく悲しいししんどいけれど、母と祖母との三人での暮らしは結構楽しいし、自分一人で何もかもがんばらなくていいのだというだけで、ぜんぜんちがいますね。







とりとめもなく書いてしまいました。拍手下さった方々、ありがとうございました。
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