■忘れること、覚え続けること
祖母は3分前に話したことも忘れてしまう日がある。身近な人がどんどん壊れていってしまう様子を間近で見つめ続けるのはつらいと以前書いたと思います。今でもそう思っているし、つらいです。祖母が忘れていくことを、わたしは覚え続けている。ひとりで。わたしは忘れられないから、祖母にとって「はじめての話」でも、わたしには「30回は聞いた話」で、でも絶対に「それ前も聞いたよ」とは言わない。言えない。それがつらいです。
わたしはどちらかというと瑣末なことをずっと覚えているタイプで(そして大切な約束などは結構忘れてしまう)、余計にしんどく感じるのかもしれません。
■昔の話
祖母は認知症になってから、昔の話をよくします。昔、と言っても、わたしが小さかった頃や、わたしの母(祖母にとっての娘)が小さい頃ではなく、彼女自身が「少女」だった頃の話が主なものです。あとは、祖父(祖母にとっての夫)と結婚するまでの話から、結婚当時の話など。
祖父がかなり波瀾万丈な人生を生きていたことを、祖母が認知症になってから知りました。一応調べてみたけれど、作話とか妄想とかはないようです。また、祖母自身もあるときまではかなり裕福に暮らしていたことがわかりました。孫であるわたしは万年金欠です。昔から変わりません。
祖母の実家に昔いた犬のこと、祖母が洋裁の先生になるまでの経緯、祖父との結婚までの経緯(これが本当に波瀾万丈!)。そういった話を話すときの祖母は、まるで「娘さん」のような表情をしています。きらきらした目で、懐かしむように話してくれる。
その表情を見たときに、「忘れる」っていうのは救済みたいなものかもしれないと思いました。嫌なことがあっても、忘れられるならば、つらくないし苦しくない。嫌なことを忘れられないのがつらくて苦しいのだから。もちろん、周囲にいる人間にとって「忘れられてしまう」ことは悲しくてつらいことです。何度も書きますが、悲しくてつらいです!でも、本人にとっては、ある種の救いみたいな側面もあるんじゃないかな。
■洋食屋でどなられた日のこと
先日ある洋食屋さんに祖母と行って、そこの店主に理不尽に怒鳴られてしまいました。わたしは割と人にナメられがちなので、よくそういう目に遭います。かわいそうなのは巻き込まれた祖母で、ずっと悲しそうな表情。でも一時間もしないうちにわたしがどなられたことも忘れて、オムライスおいしかったねとにこにこしていて、ちょっとだけ、羨ましかった。
こういう風に書くと怒られそうですけど、ここではなるべく思ったとおりに書いていきたいのです。ここに書き連ねていることは、きっと今しか書けないことだと思っています。この日記は、そう遠くない未来の自分に向けて書いています。
なので、「そう遠くない未来の自分」以外の方が読んでくださっているとか、拍手を下さるというのは、もうものすごくうれしいことです。いつもありがとうございます。
1. あなたが元気そうでよかった
心配させたらすみません。
あなたは僕のことを知らないだろうけど(こんな表現は、ああ、嫌だな。ますます墓穴を掘りそうだ)、僕は四月の魚というサイトや、もしかしたら他の媒体であなたの発信を見てきました。なので、数年来の静かなる友人であると信じたいです。
ところが、四月の魚の方の更新はある時を境に止まってしまいました。これは責めている訳ではないです。ただ、更新のあった時から頻繁に見ていた訳ではないですが、その間隔が一月に一度、数ヶ月に一度と延びていく内に、僕の中に一つの別れみたいな感覚が過りました。「ああ、この人はきっと、遠く新しい居場所を見つけたのだろう」と言うような。
ところが、色々あって久し振りにあなたの
ことを思い出して、四月の魚を覗いて今に至ります。
前置きが大変長くなり恐縮ですが、あなたが元気そうでなによりです。僕が気軽に「元気そうで」と言ったり、あなたが日記に記している以上に、実際のあなたが過ごす現実はもっと生々しく、薄暗いものがあるかもしれないと想像します。あくまで僕の想像なので、失礼があれば叱ってください。
ただ僕が「元気そうで」と思ったのにもしっかりとした理由、というか直感的なものがあります。それは、あなたの文章から生きる温かみが伝わってくるところにあります。
過ぎ去っていった物事や、命の限り(時間の限り)、穏やかな諦め、もちろん日々の小さな幸せも、すべてを手ずから伝えるようなあなたの文章に触れて、僕はあなたが元気そうにしていると感じました。
日々いろいろあることと思います。僕は静かなる友人でありたいので、無責任な励ましや慰めはしたくありません。ただ、あなたの言葉に触れ、久し振りにこうして文をしたためたいと思いました。
長くて、とても迷惑だと思います。きっと内容もめちゃくちゃでしょう? ただ、こうして伝えたい、と思わせる表現ができるあなたが健在のようで僕は本当に嬉しかったのです。
お体にお気をつけて。